
- 1. 事業用定期借地権とは
- 2. 事業用定期借地権の契約期間と更新
- 3. 事業用定期借地権の評価と地代の相場
- 4. 事業用定期借地権で土地を貸すメリットデメリット
- 5. 事業用定期借地権の契約は納得できる借地料で
事業用定期借地権とは
事業用定期借地権(じぎょうようていきしゃくちけん)とは、事業の用途のみに限定して期間を定めて事業に土地を貸す権利のことです。
事業用定期借地権は、4種類ある定期借地権における契約方法のひとつで、借主は事業用の目的でしか土地を活用できません。借地権や借地契約については、借地借家法で普通借地権と定期借地権に分けられて定められています。
契約期間は最低10年以上で50年未満で契約の更新はできず、契約期間の満了で土地が更地に戻されて確実に返還されます。
事業用定期借地権で土地を貸す場合には、公正証書を作成して契約する必要があります。
契約期間を短期から長期まで設定できることから、借地料の設定も他の契約方法と異なる場合が多くあります。
また、借主の事業による収益を元に賃料を算出する場合もあるため、収益の増減で賃料の変動をしなければいけない可能性もあるでしょう。
この借地契約における定期借地権を踏まえて、事業用定期借地権の契約の特徴についてご紹介します。
定期借地権の種類
借地権のうち、定期借地権は更新のできない借地契約で4種類あります。
定期借地権で土地を貸すと、借地契約が満了となったら土地が確実に戻ってきます。
この定期借地権の特徴は、普通借地権も含めてそれぞれ以下のとおりです。
借地借家法(新法) | 区別 | 期間の合意 | 契約期間 | 利用目的 | 契約期間の終了 |
---|---|---|---|---|---|
普通借地権 | 期間の合意なし | 30年以上 | 制限なし | 合意 | |
期間の合意あり | 30年 | 制限なし | 合意 | ||
定期借地権 | 一般定期借地権 | 50年以上 | 制限なし | 契約満了で更地にして返還 | |
建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 制限なし | 30年で譲渡特約により地主が建物を買取 | ||
事業用定期借地権 | 10年以上50年未満 | 事業用 | 契約満了で更地にして返還 | ||
一時使用目的 | 10年以上50年未満 | 決められる | 決められる |
一般定期借地権と建物譲渡特約付借地権では、居住用の建物も建てられます。そのため、居住用の建物で土地活用をしてほしい、または借主が居住用目的で土地を活用したい場合は、これらのうちいずれかの定期借地権での契約が必要です。
借地権における定期借地権について、それぞれ詳しくご紹介します。
一般定期借地権
一般定期借地権は、50年以上と非常に長い存続期間で契約します。また、使用用途は建物として限定されず、ある程度自由な利用が可能です。
契約が満了したら、借主は土地を更地にして返却しなければなりません。そのため、期間を定めて賃貸として利用する際に適した貸し方です。
長期にわたっての契約となるため、安定した収入を継続して得られます。
事業用定期借地権
事業用定期借地権は、事業の用途のみに限定して土地を貸す方法で、借主は事業用の目的でしか土地を活用できません。契約期間が最低10年から50年と幅があり、比較して柔軟な貸し方を検討できます。
契約期間を短期から長期まで設定できることから、借地料の設定も他の契約方法と異なる場合が多いようです。
また、借主の事業による収益を元に賃料を算出する場合もあるため、収益の増減で賃料の変動をしなければいけない可能性もあります。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権は、他の定期借地権と契約満了後の手続きが異なります。
契約満了後に、借主が更地にして返還するのではなく、貸主が建物を買い取らなければなりません。借主が継続して建物を利用できるメリットがある一方で、不要となり更地にする場合には自己負担となる点もあります。
契約期間も30年以上と比較して長期契約となる点にも注意しておきましょう。
一時使用目的
一時使用目的は、工事のために仮設のプレハブを建てたり、物産展や選挙事務所として場を提供したり、一時的な使用目的に限って土地を貸す方法です。
存続期間や契約の更新など特に定められていないことから、借地権に応じて様々な土地の利用が可能です。
事業用定期借地権の特徴
事業用定期借地権は、居住用に向かない土地や交通量の多い道路に面した広い土地の土地活用方法として最適です。
事業用定期借地権には、以下の特徴があります。
- 利用目的は事業用に限定される
- 土地評価額は契約の残存期間で下がる
- 更新できず契約期間に上限がある
- 公正証書で契約し更地返還となる
事業用に用途が限定されている
土地を貸す借地契約には、個人や法人など様々に貸すことができますが、事業用定期借地権では事業用に用途が限定されています。
土地と建物の使用用途や借主としては、大型店舗やホテル、工場、倉庫などが考えられるでしょう。アパートやマンションなど居住用建物の場合は、この契約方法で貸すことができません。
老人ホームなどの高齢者住宅も、居住用の区分となってしまい事業用定期借地権で貸せないものです。
事業用定期借地権で土地を貸す場合には、借主が事業者に限られてしまう点には注意が必要です。
更新できず契約期間に上限がある
事業用定期借地権は定期借地権であり、契約上では更新できません。そのため、契約期間の満了で土地が確実に返還されます。
契約の更新をしたいと希望しても、自動更新や契約更新はできず、契約は終了となります。どうしても契約更新をしたい場合には、新たに再契約が必要です。
定期借地契約であるため、契約終了後に立ち退き料を払う必要もなく、そのまま土地が戻ってきます。
公正証書で契約し更地返還となる
事業用定期借地権で土地を貸す場合には、公正証書を作成して契約する必要があります。
他の一般定期借地契約などであれば、公正証書”等”とされているため普通の契約書でも可能ですが、事業用定期借地権に限り必ず公正証書での契約です。
契約書を専門家に依頼するなど、作成が手間な点には注意しておきましょう。
また、契約満了となったら、借主が建物を建てていた場合には更地に戻しての返還となります。解体費用を払う必要もなく戻ってくるため、すぐにまた土地活用を始められるでしょう。
事業用定期借地権に向いている土地
事業用定期借地権で貸すのに向いている土地は、以下のような土地です。
- 長期間にわたって使う予定のない土地
- ある程度の広さがある土地
- 商業地域にある土地
- 大きな道路に面している土地
事業者が使いやすい広い土地で、長期間にわたり利用する予定がないのであれば、事業用定期借地権で土地を貸すのに向いているでしょう。所有している土地は、使用していなくても固定資産税は毎年かかってくるでしょう。この固定資産税を負担なく払っていく方法として、活用して得た収益で払う方法もあります。
ですが、建物を建てての活用や整備しての活用は難しいものです。そのような方には、必要な人に土地を貸す方法をおすすめしていますが、自分の土地に本当に借り手がつくのか自分だけで判断するのは難しいと思われるかもしれません。
事業用定期借地権の契約期間と更新
事業用定期借地権は期間を定めて借地にする権利のため、基本的に更新はできません。
この事業用定期借地権の契約期間と更新についてご説明します。
借地契約の期間
事業用定期借地権として借地契約のできる期間は、次の2つです。
- 10年以上30年未満
- 30年以上50年未満
契約期間は、土地を使う予定がないなら長期の30年以上50年未満で貸し出し、将来的に使う予定があるなら10年以上30年未満がおすすめです。
なお借地期間により貸し出しの条件が異なり、10年以上30年未満の短い期間で借地契約を結んだ場合、契約の更新や建物の買取請求はありません。
ただし、30年以上で契約した場合には建物買取請求権を行使される可能性があります。
この建物買取請求を避けるためには、契約時に特約などで定めておくことが必要です。仮に買取請求に応じる場合でも、貸主は継続して事業用物件の運営ができるため、その後の土地活用をスムーズに行いたい場合には、建物を買い取っても良いかもしれません。
建物買取請求権とは
建物買取請求権とは、土地を貸す契約の期間満了により土地の明け渡しが必要な際に、借主が建てた建物を貸主へ買い取りを請求できる権利です。
もともとは、借りた土地は更地にして返還となっていましたが、借地借家法により、まだ使用できる建物の解体は損失とみなして建物買取請求権が設定されました。
契約期間の更新
30年以上50年未満で期間を定めて借地契約を結んだ場合には、契約更新をすることも可能です。
契約を終了する場合でも、借主は貸主に対して建物買取請求権を行使して、土地に建てられた建物の買取を請求できます。
一方、10年以上30年未満の定めた期間で契約が終了したら必ず更地で返却され、その後の土地活用に支障をきたす心配はないでしょう。
中途解約
事業用定期借地権は、法令上で中途解約はできないように定められています。
中途解約をする可能性がある場合には、契約を結ぶ段階で中途解約権を留保する特約を盛り込んでおく必要があります。
事業用定期借地権の評価と地代の相場
事業用定期借地権の評価と地代の相場についてご説明します。
全国の地代の相場
定期借地権における地代の相場は、200平米において全国平均値で約80万円です。
200平米で80万円 / 年程度
地代の計算方法
年間の地代は、固定資産税など公租公課の約2~3倍と一般的には考えます。
例として、固定資産税に毎年1万円払っている場合は、年間の地代を2~3万円にすることが多いでしょう。
地代の計算方法は、固定資産税など税金による公租公課から出す方法以外にも、路線価や期待利回りから出す計算方法があります。
固定資産税と都市計画税の合計税率は1.7%で、地代の目安は固定資産税の約2~3倍とします。
つまり、地代は固定資産税評価額の3.4~5.1%程度です。
地代の評価額は契約期間で下がる
不動産には評価額があり、これによって相続税や固定資産税額が決定します。事業用定期借地権を利用している場合は、契約期間がどれくらい残っているかによって、評価額が減額されます。
契約の残存期間 | 評価額の減少率 |
---|---|
15年を超える期間 | 20% |
10年を超え15年以下 | 15% |
5年を超え10年以下 | 10% |
5年以下 | 5% |
建物が建てられた場合には、貸家建付地として扱われ評価額が20%ほど減額されます。
小規模宅地の特例を適用できる土地であれば、最大80%ほどの減額も可能です。
つまり、契約の残存期間が長いほど土地の評価額が下がるため、税金対策としても役立つでしょう。より大きく税制優遇を受けたい場合は、長期間で契約することがおすすめです。
事業用定期借地権で土地を貸すメリットデメリット
事業用定期借地権で土地を貸す場合には、特徴を把握した上で土地活用の方法として適切かを考えてみることをおすすめします。
事業用定期借地権のメリット
事業用定期借地権を利用したいと考えたら、メリットとデメリットの両方を知っておきましょう。
事業用定期借地権のメリット
- ライフプランに合った土地活用ができる
- 居住用より高い地代を狙える
- 長期で安定した収入を得られる
【メリット①】ライフプランに合った土地活用をできる
最短10年から最長50年まで、契約期間の幅が広い事業用定期借地権は、自身のライフプランに合った土地活用ができる点がメリットです。
例えば、10年後に別の方法で土地活用をしたいなら短めの契約期間を選べて、使用する予定がないなら長期に設定して、不労所得が得られます。
特に短期で貸し出す際には、他の定期借地権よりも契約期間を短く設定できるため、30年未満での活用を考えるなら、事業用定期借地権のメリットは大きいでしょう。
【メリット②】地代は居住用より高く長期で安定した収入
事業用と居住用を比較すると、収益の観点から事業用に貸し出した方が借地料を高く設定できます。居住用に貸し出す場合でも借地料は獲得できますが、事業用と比較すると安くなることが多いでしょう。
土地活用で高い収益を得たい場合には事業用定期借地権がおすすめで、事業の収益性次第では、さらに高く借地料の設定も可能です。
また、長期間の貸し出しが可能なため、長期間にわたって安定して収入を得られる点もメリットです。
自分で事業を行う場合は、管理や維持に手間がかかったり、事業がうまくいくかどうかのリスクを抱えたりしなければなりませんが、土地を貸すだけなら心配はありません。
【メリット③】相続税評価額を抑えられる
定期借地権で貸している土地は、契約期間の残りに応じて評価額が減額されます。
減額される評価額は以下のとおりです。
定期借地権の残りの期間 | 評価減 |
---|---|
15年を超える期間 | 20% |
10年超~15年以下 | 15% |
5年超~10年以下 | 10% |
5年以下 | 5% |
建物が建てられた場合には、貸家建付地として扱われ評価額が20%ほど減額されます。
小規模宅地の特例を適用できる土地であれば、最大80%ほどの減額も可能です。
事業用定期借地権のデメリット
事業用定期借地権は、事業用として貸すため長期的に高い地代を得られるかもしれない一方で、デメリットもあります。
事業用定期借地権のデメリット
- 契約すると貸主からの中途解約は困難
- 借主の事業破綻で貸主に負担
- 土地の相続で保証金不足が起きる
【デメリット①】契約すると貸主からの中途解約は困難
契約時に貸し出しの期間を決める事業用定期借地権では、貸主からの中途解約は原則できません。
これは借主の利益を守るためであり、契約期間を満了するまで、原則土地活用ができなくなると考えましょう。そのため、契約期間を長く設定してしまった場合は、その間に借地料でしか収益を得られず、土地活用の計画があっても、契約満了まで待たなければなりません。
もちろん、借主に契約違反があったり、事業用ではなく居住用で利用している場合などは、契約の解除も可能ですが、借主に非がない限りは、契約期間満了まで別の用途での土地活用はできないと考えましょう。
【デメリット②】借主の事業破綻で貸主に負担
借主の事業が成功しているなら問題はありませんが、仮に事業が破綻してしまった場合は、貸主に負担が生じることもあります。もしも、借主の事業が破綻して建物が残る場合は、更地にする際の費用は貸主が負担します。
なぜなら、建物の所有権が借主にあるためで、取り壊しをするには借主の許可を得て、貸主が実費で行わなければならないからです。事業が破綻すると、収益を得られない可能性が出てくるだけでなく、別途貸主に費用負担が発生する場合もあることは理解しておきましょう。
【デメリット③】土地の相続で保証金不足が起きる
事業用定期借地権を設定している場合でも、土地の相続は可能ですが、このとき相続人に保証金を渡していないと、保証金不足が起きることもあります。事業用定期借地権を契約する際には、契約時に借主から保証金を預かることがあり、契約満了時にはこれを返還します。
しかし、土地の権利だけを相続してしまった場合は、新しい土地の所有者が契約満了時に保証金を返せなくなり、場合によっては裁判に発展することもあるでしょう。契約時に、多額の補償金を受け取っている場合は注意が必要で、相続をする場合は土地の権利だけでなく、保証金も相続しておくことが大切です。
事業用定期借地権の契約は納得できる借地料で
事業用定期借地権で土地を活用するなら、借地料をいくらに設定するかが重要です。借地料は高すぎても借主を見つけにくいですが、安くしすぎても貸主の利益が出ません。
そのため、相場価格を参考にして、適正価格を定めることが重要です。貸主と借主双方が納得できる借地料を設定し、事業用定期借地権を賢く使って土地活用を行いましょう。