ご自身が所有されている土地、あるいは、これから購入や相続を検討している土地。 その「本当の価値」を、正しくご存知でしょうか。
土地は、株式や預貯金といった、他の資産とは異なり、その価値を、一つの明確な金額で表すことが非常に難しい資産です。 「相続税の計算に使われる価格」と、「実際に売買される価格」が、全く違うことに驚かれる方も少なくありません。
「土地の値段って、一体、誰が、どうやって決めているの?」 「公示価格、路線価、固定資産税評価額…たくさんありすぎて、何が何だか分からない」 「将来のために、資産価値が落ちにくい土地の、見極め方を知りたい」
この記事では、そんな「土地の資産価値」に関する、皆様の素朴な疑問や深い悩みを解消するために、不動産のプロフェッショナルとしてその本質を体系的に、そして分かりやすく解説していきます。
土地の資産価値とは
土地の資産価値とは、一言でいえば、その土地が持つ経済的な価値の総体を指します。
しかし、土地の価値は、単に「広いから高い」「狭いから安い」といった、単純なものではありません。その価値は、土地そのものが持つ普遍的な特性によって支えられています。
自然な特性
土地は、他のどのような資産とも異なるいくつかのユニークな特性を持っています。 まず、動かすことのできない「不動性」。
そして、使用してもすり減ることのない「永続性」。
さらに、一つとして同じ土地は存在しない「個別性」。これらの特性により、土地は物理的に、非常に安定した資産であるといえます。
建物のように、時間と共に老朽化することはありません。
文化的な特性
一方で、土地の「経済的な価値」は、決して不変ではありません。
それは、その土地を取り巻く社会的・経済的、そして行政的な要因によって、常に変動します。
例えば、近くに新しい駅ができれば利便性が高まり、土地の価値は上昇します。逆に、周辺の人口が減少し、商業施設が撤退すれば、その価値は下落するかもしれません。
このように土地の資産価値は、その土地が持つ物理的な「自然の特性」と、社会の動きによって変動する「文化的な特性」という、二つの側面から総合的に成り立っているのです。
土地と建物の資産価値の違い
不動産の価値を考える上で、「土地」と「建物」の資産価値の違いを理解しておくことは、非常に重要です。
この二つの最も根本的な違いは、「経年劣化の有無」にあります。
建物は、建築された瞬間から、時間の経過とともに物理的な劣化が進んでいきます。風雨や紫外線にさらされることで部材は傷み、設備も古くなっていきます。そのため、建物の資産価値は一般的に、築年数が経つにつれて下落していく「減価資産」です。
木造戸建て住宅の場合、築20年〜25年で、建物の資産価値はほぼゼロになるともいわれています。
一方、土地は建物のように物理的に劣化したり、消耗したりすることがありません。
むしろ、前述の通り、周辺環境の開発や社会情勢の変化によって、購入時よりも資産価値が大きく上昇する可能性さえあります。
土地の資産価値を決める要因
では、土地の資産価値は具体的に、どのような要因によって決定されるのでしょうか。
不動産鑑定評価の世界では、その要因を大きく3つのレベルに分類して分析します。
①一般的要因
これは、日本全体の社会や経済の大きな動向といった、マクロな視点での要因です。
例えば、国の金利政策や景気の動向、人口の増減、あるいは税制の変更といった社会全体の大きな流れが、不動産市場全体に影響を与え、個々の土地の価値にも間接的に作用します。
こうした一般的要因の分析は、不動産市場の大きなトレンドを把握する上で重要となります。
②地域的要因
次に、その土地が属している「地域」が持つ特性について見ていきます。
その地域が商業地域なのか、住宅地域なのか、あるいは工業地域なのか。最寄り駅からの距離や公共交通機関の利便性、スーパー・学校・病院といった生活関連施設の充実度、さらに、公園の多さや街並みの美しさといった住環境の快適性などが挙げられます。
こうした地域全体の利便性や快適性、そして将来性が、そのエリアの土地の基本的な価値水準を決定づけるのです。
③個別的要因
最後に、その土地一つひとつが持つ固有の特性です。これが、最終的な土地の価格を左右する、最も直接的な要因となります。
例えば、土地の広さや形状(正方形に近いか、不整形か)、道路にどのように接しているか(接道状況)、そして日当たりや眺望、あるいは高低差の有無、地盤の強固さといった物理的な条件です。
また、都市計画法上の用途地域や、建ぺい率・容積率といった法的な規制も、その土地にどのような規模の建物が建てられるかを決定するため、価値を大きく左右する個別的要因となります。
土地の資産価値を示す4つの価格
ここが、土地の価値を分かりにくくしている最大のポイントです。
実は、一つの土地には、評価する目的や主体によって、4つの異なる価格が存在します。
これを「一物四価(いちぶつよんか)」と呼びます。
①公示価格
公示価格は、国土交通省が、毎年1月1日時点の、全国の標準的な地点(標準地)の、正常な価格を、判定し、公表するものです。 その目的は、一般の土地取引において、客観的な「指標」を提供することにあります。不動産鑑定士が、周辺の取引事例などを基に、評価を行い、土地鑑定委員会が、最終的な価格を決定します。 この公示価格は、公共事業の、用地買収価格の、算定基準ともなる、非常に公的な、信頼性の高い価格です。
②相続税路線価
相続税路線価は、国税庁が、毎年1月1日時点の、主要な道路に面した、土地の、1平方メートルあたりの価格を、算定し、公表するものです。 その目的は、その名の通り、「相続税」や「贈与税」を計算するための基準として用いることです。 一般的に、相続税路線価は、公示価格の8割程度の水準になるように、設定されています。国税庁の「財産評価基準書」のウェブサイトで、誰でも、路線価図を、閲覧することができます。
③固定資産税評価額
固定資産税評価額は、各市町村(東京23区の場合は都)が、3年に一度、評価替えを行い、決定する価格です。 その目的は、「固定資産税」や「都市計画税」といった、地方税を課税するための基準として用いることです。 一般的に、固定資産税評価額は、公示価格の7割程度の水準になるように、設定されています。毎年、春ごろに、市町村から送られてくる「納税通知書」に、記載されています。
④時価(実勢価格)
そして最後に、最も重要なのが、この「時価」、すなわち「実勢価格」です。
これは、実際に不動産市場で、買主と売主の間で合意され、取引が成立する、リアルな価格のことを指します。
上記の3つの公的な価格は、あくまで行政がそれぞれの目的のために設定した「評価額」であり、必ずしも実際の取引価格と一致するわけではありません。
時価は、その時々の景気の動向や、市場の需要と供給のバランスによって、常に変動します。
一般的にこの時価を簡易的に算出する際の目安としては、
「公示価格の1.1倍~1.2倍」や「相続税路線価 ÷ 0.8」といった計算式が用いられることがあります。
土地の資産価値を調べる方法
では、ご自身が所有する土地の、リアルな時価(実勢価格)をより正確に知りたいと考えた場合、どのような方法があるのでしょうか。
不動産鑑定士に鑑定を依頼する
最も正確で、公的な証明力を持つ方法が、国家資格者である「不動産鑑定士」に、有料で「鑑定評価」を依頼することです。
不動産鑑定士は、法律に基づいた厳密な評価基準に従い、その土地のあらゆる要因を多角的に分析し、客観的な資産価値を算出してくれます。
作成された評価書は、裁判や税務署への申告など、公的な場面でも有効な証明資料として使用することができます。
ただし、その分、費用は数十万円単位と高額になる点には注意が必要です。
不動産会社に査定を依頼する
より手軽に、しかも無料で時価を知りたい場合に有効なのが、不動産会社に「価格査定」を依頼する方法です。
この査定は、主にその土地を売却することを目的として行われるものです。
不動産会社は、周辺の類似物件の取引事例(取引事例比較法)や、将来的な収益見込み(収益還元法)などをもとに、「この価格であれば市場で売却できる可能性が高い」という、現実的な査定価格を提示してくれます。
ただし、この価格はあくまで目安であり、不動産鑑定士による鑑定評価のような、公的な証明力を持つものではない点に注意が必要です。
土地の資産価値を決める要因や指標を理解しよう
今回は、土地の資産価値について、その本質から、価値を決める要因、さらには複数の価格指標とその調べ方まで、網羅的に解説しました。
お伝えしたように、ひとつの土地にはさまざまな「顔」があり、その価値は、見る角度や目的によって大きく異なります。土地の資産価値を正しく理解するということは、単に価格を把握するだけではなく、その土地が持つポテンシャルとリスクの両面を踏まえ、ご自身のライフプランや資産形成戦略の中で、どう位置づけるかを考えることに他なりません。
そして、そうした複雑で専門的なプロセスにおいては、信頼できるプロフェッショナルの知見を積極的に活用することが、資産の価値を最大限に引き出し、後悔のない意思決定へとつながる、もっとも確実な方法だといえるでしょう。