②不動産売却

相続した土地を5年以内に売却するのは注意?その理由を解説

相続した土地を5年以内に売却しようと考えている方は、どのタイミングで動けばよいのかや税金の負担が気になるかもしれません。相続した土地を5年以内に売却すると、税金面で思わぬ負担が発生する可能性があります。とくに譲渡所得税の税率は所有期間によって大きく変わるため、売却のタイミングは慎重に検討しましょう。

本記事では、相続した土地を5年以内に売却する際の注意点や税金の仕組み、売却の流れ・活用できる特例について解説します。ぜひ最後まで読んで、後悔のない土地売却の参考にしてください。

相続した土地を売却したときにかかる税金

相続した土地を売却する際には、相続税や譲渡所得税など、いくつかの税金が発生する可能性があります。以下6つについて順に確認しましょう。

  • 相続税
  • 譲渡所得税
  • 住民税
  • 復興特別所得税
  • 印紙税
  • 登録免許税

これらの仕組みを理解しておくと、納税の準備がスムーズになります。

相続税

被相続人(亡くなった方)の財産を受け継いだときに課される税金です。相続した土地については、国が示す評価方法に基づいて価値が算定され、それに応じた税額が算出されます。基礎控除という一定の非課税枠が設けられており、遺産総額がそれを下回る場合、相続税がかからないケースもあります。

ただし、土地以外の財産(預貯金や有価証券など)との合計で基礎控除を超えると課税対象になる点がポイントです。また、配偶者控除などの特例を活用することで税額が軽減される場合もあるため、要件をよく確認しましょう。

譲渡所得税

相続した土地を売却して得た譲渡所得(売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた利益)に対して課される税金です。土地の取得費は被相続人が購入したときの金額を引き継ぎますが、資料が残っていない場合は「概算取得費」として売却価格の5%しか計上できないことがあります。

譲渡所得税の税率は、土地の所有期間が5年以内か5年超かによって「短期譲渡所得」「長期譲渡所得」に分かれ、短期の場合は税率が高くなる点に注意が必要です。計算時は、取得費加算などの特例が適用できるかも確認しましょう。

住民税

個人の所得に応じて自治体に納める税金です。相続した土地を売却して譲渡所得が生じると、譲渡所得税とあわせて住民税も課税される可能性があります。課税額は居住地の自治体が定める税率を基に計算され、多くの場合は譲渡所得税と同じタイミングで納付することになります。

売却後の確定申告で譲渡所得を申告すると、その情報が自治体にも共有され、住民税の課税にも反映される仕組みです。所得税とは別枠の計算になりますので、納税計画を立てる際には余裕を持って資金を確保しておくと安心です。

復興特別所得税

東日本大震災からの復興財源を確保する目的で導入された税金で、所得税額に対して一定率が上乗せされる形で課されます。具体的には、所得税額に対し2.1%が加算されるため、譲渡所得税の計算とあわせて考慮する必要があります。この税金は2013年から2037年までの25年間限定で課税されるものです。

名称は「復興特別所得税」ですが、個別の税ではなく、あくまでも所得税に対する追加的な負担として扱われる点が特徴です。このため、譲渡所得税を計算するときの計算式に復興特別所得税が組み込まれ、最終的な納税額がやや高くなることを覚えておきましょう。

印紙税

不動産売買契約書などの文書を作成するときに課される税金です。具体的な税額は契約書に記載される金額によって段階的に定められており、高額な取引ほど印紙税も高くなる仕組みです。土地を売却する場合は売買契約書が必要となるため、その契約書に貼付する印紙を用意しなければなりません。

なお、一定の要件を満たすと印紙税の軽減措置が適用されるケースもあります。契約書の作成や署名・押印が必要になるタイミングで印紙を貼り、売主と買主で取り扱いを確認しておくとトラブルを避けやすいでしょう。

登録免許税

不動産の登記を行う際に支払う税金です。相続した土地を名義変更する場合や、売却に向けて抵当権の抹消などをする場合にも必要になります。土地の評価額や登記内容によって税率や納付額が変わるため、事前に法務局や専門家に確認しておくと安心です。

相続登記の手続きでは、相続が原因となる登記に対して通常よりも低い税率が適用されるケースもあります。売却に向けた手続きがスムーズに進むよう、必要な書類とあわせて納税額の目安も把握しておくと、登記段階でのトラブルを減らせるでしょう。

相続した土地を売却する際に押さえておきたいポイント

相続した土地を売却する際は、事前に知っておくべき手続きや税金の仕組みなど、いくつか注意すべき点があります。以下5つについて、基本を押さえておくと安心です。

  • 売却の際に課される税金は全相続人が支払う
  • 土地を取得したときの資料を集めておく
  • 売却によって利益が発生した場合は確定申告を行う
  • 譲渡所得と税率について
  • 取得費が不明な場合について

これらを理解しておくことで、スムーズに売却手続きを進められるでしょう。

売却の際に課される税金は全相続人が支払う

相続した土地を売却する場合、得られた利益(譲渡所得)にかかる税金や、契約書の印紙税などの費用負担は、原則として相続人全員が分担することになります。たとえば、相続財産の分割協議で土地を売却して得た代金を相続人間で分配する形をとる際には、税金の支払い義務も含めて話し合う必要があります。

売却益を受け取る人だけでなく、別の財産を受け取った相続人がいる場合でも、遺産の総額や分割割合に応じて税金を分担することが一般的です。とくに、相続開始後にすぐ売却の話が出たときには、どの段階で費用負担を整理するかを決めておかないと、あとからトラブルが生じる可能性があります。

土地を取得したときの資料を集めておく

相続した土地の元々の取得費用や、過去にかかった改良費、固定資産税に関する領収書などの資料を集めておくと、売却時の計算がスムーズです。とくに、被相続人が土地を購入した際の売買契約書や領収書が残っていれば、譲渡所得を正しく算出するうえで重要な証拠資料となります。

取得費がはっきりしない場合は、売却価格の5%しか取得費として認められない「概算取得費」を使う可能性があり、結果的に課される税額が増えることも。相続が発生した時点で、被相続人の遺品整理とあわせて関連書類を確認し、無理のない範囲で保管・整理しておくことがポイントです。

売却によって利益が発生した場合は確定申告を行う

土地を売却して譲渡所得が発生した場合、会社員など給与所得がある方でも、基本的には確定申告が必要です。確定申告をすることで所得税・住民税だけでなく、復興特別所得税もあわせて計算され、翌年にまとめて納付する仕組みになっています。

申告しないまま放置すると追徴課税がかかるおそれもあるため、売却が完了したら早めに必要書類をそろえて手続きを進めましょう。必要書類の例として、売買契約書や領収書の写しなどがあげられますので、取引時の書類は保管しておくことが大切です。

譲渡所得と税率について

譲渡所得は、土地を売却したときに生じる利益のことで、その計算方法によって実際の納税額が決まります。土地を所有していた期間が5年以内の場合は「短期譲渡所得」となり、通常よりも高い税率が適用されるのが特徴です。一方、5年を超えて所有していた場合は「長期譲渡所得」として税率が抑えられ、納税額が軽減されます。

相続によって取得した土地でも、被相続人が所有していた期間とあわせて5年を超えるかどうかが大きなポイントになります。売却時期によって税率が変わる可能性があるため、計画的に売りに出すかを検討する材料になるでしょう。また、譲渡所得が多額になる場合は特例の活用を含め、専門家にシミュレーションを依頼すると安心です。

取得費が不明な場合について

相続した土地の取得費が不明な場合、「概算取得費」を用いることになるため、課税対象となる譲渡所得が多くなりがちです。取得費は、被相続人の取得時期や取得金額、仲介手数料などを含むケースがあります。しかし、古い資料が残っておらず算出できない場合はどうしても不利になりやすいという側面があります。

このようなケースを避けるには、遺産整理の段階で関係書類を見つけ出し、少しでも正確に取得費を割り出せるようにしておくことが大切です。もし入手が困難なときは、専門家の協力を得て当時の資料を探す方法を検討するのも一案です。

相続した土地の5年以内の売却にはなぜ注意が必要なのか

相続した土地を5年以内に売却すると、一般的に短期譲渡所得扱いとなるため、譲渡所得税や住民税の税率が高くなる場合があります。すぐに売却するべきか・そうでないかは、状況に応じて判断しなければいけません。

すぐに売却したほうがよいケース

相続税や維持管理費などの負担が大きいときです。とくに相続発生後、固定資産税や都市計画税などが毎年かかるうえ、不要な土地を持ち続けると将来的に売却価格が下がってしまう可能性も。また、家族や親族との共有名義になっている場合、早めに売却することで煩雑な手続きを一度にまとめて解消できる点がメリットです。

もし土地を活用する予定がなく、維持コストが高い場所や需要の低いエリアであれば、資産価値を確保できるうちに売却を進めるとリスクを回避しやすくなります。相続税の申告期限との兼ね合いも考慮しつつ、今後の売却スケジュールを検討しておくのが大切です。

すぐに売却しなくてもよいケース

相続した土地が自宅用地などで活用が期待できる場合や、市街地で将来的に地価上昇が予測されるエリアであれば、5年以内に売却をする必要はありません。短期譲渡所得として税率が高くなるだけでなく、相続登記や遺産分割が十分に整わないまま売却を進めると、あとからトラブルが発生するおそれもあります。

さらに、相続人同士で土地の利用方法に関する考えが一致しない場合は、長期保有して改めて活用策を検討するのも1つの方法です。大切なのは、現在の状況と将来の見通しを総合的に判断し、長く持ち続けることで得られるメリットと負担を冷静に見比べることだといえます。

相続した土地を売却する流れ

相続した土地の売却には、遺産分割協議や相続登記などの手続きが必要になるうえ、税金関連の申告も欠かせません。以下7つについて順に押さえることで、余計なトラブルを防ぎながらスムーズに売却を進められます。

  • ステップ①遺言書の有無を確認する
  • ステップ②相続財産と相続人を調査する
  • ステップ③遺産分割協議を行う
  • ステップ④相続登記を申請する
  • ステップ⑤相続税の申告を行う
  • ステップ⑥土地を売却する
  • ステップ⑦確定申告を行う

これらを順に進めることで、適切な相続手続きと売却を行えるでしょう。

ステップ①遺言書の有無を確認する

まずは被相続人(亡くなった方)が遺言書を残しているかどうかを確認することが重要です。自筆証書遺言があれば、家庭裁判所で「検認」という手続きを受けてから内容を実行します。公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管されていることが多く、検認手続きが不要な点が特徴です。

万が一複数の遺言書が出てきたときには、作成された日付が新しい方が優先される可能性が高いので、すべての書面をきちんと確認しましょう。遺言書の内容によっては、誰が土地を相続するかが明確に指定されているケースもあるため、手続きの出発点として確認作業を丁寧に行うことが大切です。

ステップ②相続財産と相続人を調査する

次に、相続財産と相続人を正確に調べる作業を進めます。具体的には、法務局や市区町村役場で戸籍謄本や除籍謄本を取り寄せ、被相続人の家族関係や本籍地の移動状況などを確認するのが一般的です。また、相続財産となる土地の登記情報を調べ、所在地や地目などを把握しておくと手続きがスムーズに進みます。

さらに、ほかの財産(預貯金や証券など)がある場合は、それらを含めた相続財産の全体像を把握する必要があります。こうした調査を行うことで、後々になって「本当は相続人だった人」が見つかるといったトラブルを避けやすくなるでしょう。

ステップ③遺産分割協議を行う

相続人が誰で、どの財産をどのように分けるかが明確になったら、遺産分割協議を行い、内容を「遺産分割協議書」という形で書面化します。協議書には、相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付するのが通常の流れです。

相続する土地を売却する方針が決まっている場合は、誰が売主として手続きを進めるか、分配金をどう扱うのかなどを明確に定めるとトラブルを避けられます。必要に応じて専門家(司法書士・税理士・弁護士)に相談すれば、協議内容の法的な有効性を確認したうえでスムーズに作成できるでしょう。

ステップ④相続登記を申請する

遺産分割協議が整ったら、土地の名義を被相続人から相続人へ変更する相続登記の申請を行います。申請先は該当の土地を管轄する法務局で、登記申請書や遺産分割協議書、被相続人の戸籍謄本など必要書類をそろえることが大切です。

なお、相続登記には登録免許税がかかり、土地の評価額や登記内容によって税額が決まります。2024年4月1日からは相続登記が義務化されており、正当な理由なく申請を怠ると過料が科される可能性があります。相続開始を知った日から3年以内に申請する必要がありますので、早めに手続きを進めることが重要です。

ステップ⑤相続税の申告を行う

相続税は、相続が開始してから10ヶ月以内に申告・納税を行う必要があります。遺産分割協議がまとまっていなくても、期限内に申告しなければ加算税や延滞税が課されるおそれがあるため、早めに申告内容を整理しておきましょう。

土地の評価額は路線価や倍率方式などによって算定され、さらに小規模宅地等の特例や配偶者控除など、多岐にわたる軽減策が存在します。これらの特例適用を検討する際は要件を正確に満たす必要があり、専門家に相談することで最適な申告方法を見つけやすくなります。

ステップ⑥土地を売却する

名義変更が完了したら、いよいよ土地の売却手続きを進めます。不動産会社に査定を依頼して売却価格の相場を把握し、仲介契約を締結したうえで購入希望者を探していく流れが一般的です。売買契約の締結時には、印紙税が必要になるほか、売却後に譲渡所得が発生すれば翌年に確定申告を行うことになります。

相続した土地をできるだけ有利な条件で売却するためには、適切な価格設定とタイミングが重要です。地域の不動産事情に詳しい仲介業者や専門家のサポートを受けると、交渉や手続きをスムーズに進められるでしょう。

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ステップ⑦確定申告を行う

土地の売却が完了すると、譲渡所得が生じたかを計算し、利益があれば確定申告が必要となります。確定申告では「譲渡所得税」とともに「住民税」や「復興特別所得税」の計算も行われるため、売却時の書類一式(売買契約書・領収書・仲介手数料の明細など)を忘れずに保管しましょう。

取得費が不明な場合は概算取得費として売却額の5%しか認められず、課税対象額が大きくなる点に注意が必要です。納税にかかる資金計画を立てたうえで、期限内に申告と納付を済ませれば、一連の相続手続きが完了します。

相続した土地の売却時に利用できる特例・節税方法

相続した土地を売却するときは、税負担を軽減するために活用できる特例や節税策があります。以下5つを理解しておくと、納税時の負担を抑えながら売却をスムーズに進めやすくなるでしょう。

  • 相続税の優遇措置
  • 取得費加算に対する特例
  • 相続により取得した空き家の譲渡に対する特別控除
  • 平成21年および平成22年に取得した土地に対する特別控除
  • ふるさと納税を利用した節税

詳しく解説します。

相続税の優遇措置

相続税には、さまざまな優遇措置が設けられています。たとえば、基礎控除や配偶者控除、小規模宅地等の特例などが代表的です。とくに小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用や事業用として使われていた土地に適用され、評価額を最大80%まで減額できます。これにより、相続税そのものを大幅に減らせることが期待できるため、相続後の売却を考える前に、まずは相続税の優遇措置を十分に確認することが大切です。

ただし、それぞれ適用条件が厳密に決まっており、要件を満たさない場合は利用できません。要件の詳細は国税庁の資料や専門家に相談して確認するとよいでしょう。

取得費加算に対する特例

取得費加算の特例とは、相続税を納めた場合に、支払った相続税の一部を後の譲渡所得の計算において取得費に加算できる制度です。これが適用されると譲渡所得が小さくなるため、譲渡所得税や住民税などが軽減されます。

ただし、この特例は相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合に限り適用されます。申告の際には相続税の計算明細書など書類の準備が必要です。適用を検討する際は相続税の申告書類をきちんと保管し、必要書類をそろえて税務署に確定申告を行うことを忘れないようにしましょう。

相続により取得した空き家の譲渡に対する特別控除

相続した空き家を売却する際、一定要件を満たせば3,000万円の特別控除が受けられます。おもな要件は、以下のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された被相続人の居住用家屋であること
  • 区分所有建物でないこと
  • 相続開始から3年以内に売却すること
  • 相続から売却まで使用されていないこと
  • 売却時に耐震基準を満たすこと
  • 売却代金が1億円以下であること

この特例は令和9年末まで適用可能で、譲渡所得を大幅に減らせる重要な節税策です。

平成21年および平成22年に取得した土地に対する特別控除

平成21年(2009年)および平成22年(2010年)に購入により取得した土地を、一定期間経過後に売却した場合、1,000万円の特別控除が認められる制度があります。これはリーマンショック後の経済対策として創設された措置で、当時土地を購入した個人の負担軽減が目的です。

ただし、この特例は相続や贈与で取得した土地には適用されません。適用条件は、平成21年取得分は平成27年(2015年)以降、平成22年取得分は平成28年(2016年)以降に売却することや、特別な関係者(親族など)から取得した土地でないことなどです。この制度の適用を検討する場合は、国税庁のガイドラインや専門家に確認するとよいでしょう。

ふるさと納税を利用した節税

ふるさと納税を活用すると、所得税や住民税の一部を希望する自治体に寄付でき、寄附額から2,000円を引いた額について控除が受けられます。譲渡所得がある場合でも総所得金額等に含めて控除限度額が計算されますが、分離課税の性質上、通常の所得と比べて控除効果が限定的な場合があります。

確定申告不要な給与所得者で寄附先が5団体以内なら、「ワンストップ特例制度」が利用可能です。控除上限額は所得などで異なるため、総務省のシミュレーションで事前に確認するとよいでしょう。

まとめ

相続した土地の売却には、税金や手続きなど多くのポイントがあります。とくに、売却時期や所有期間によって税負担が大きく変わるため、事前に情報収集し、必要な準備を進めておくことが大切です。

また、特例や控除を活用することで、税金の負担を軽減できる場合もあります。自分の状況に合った方法を選び、専門家にも相談しながら、安心して土地の売却を進めていきましょう。

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