大切なお住まいである「戸建て」の売却を考え始めたとき、多くの方がこうした漠然とした、あるいは具体的な不安に直面するのではないでしょうか。
不動産売却は、人生における非常に大きな決断です。そのプロセスがスムーズに進むかどうかは、その後のライフプランにも大きな影響を及ぼします。特に、戸建ての売却にはマンションとは異なる特有の難しさや注意すべき点が存在するのもまた事実です。
しかし、ご安心ください。「戸建てだから売却は難しい」と一概に決めつけてしまう必要はまったくありません。なぜ売却が難しくなるのか、その原因を正しく理解し、ご自身の物件の長所と短所を客観的に把握した上で適切な対策を講じれば、必ず納得のいく売却を実現することができます。
この記事では、そんな戸建て売却に関する皆様の不安を解消するために、不動産のプロフェッショナルとして、売却が難しくなる具体的な原因から、それを乗り越えてスムーズに売るための実践的なコツまで、体系的に、そして分かりやすく徹底的に解説していきます。
戸建ての売却が難しいといわれる理由
まず、なぜ一般的に「戸建ての売却はマンションに比べて難しい」といわれるのでしょうか。その背景には、戸建てという不動産が持ついくつかの構造的な理由が存在します。
資産価値が減少するスピードが早いため
不動産の価値は「土地」と「建物」の二つの価値から成り立っています。このうち、土地の価値は社会情勢などによって変動するものの、経年によって劣化することはありません。
しかし、建物は建築された瞬間から時間の経過とともに必ず物理的な劣化が進行し、その資産価値は下落していきます。特に日本の戸建て住宅の多くを占める木造住宅の場合、税法上の法定耐用年数は22年と定められており、市場においても築20年~25年程度で建物の資産価値はほぼゼロに近いと評価されるのが一般的です。
つまり、戸建てはマンション(特に鉄筋コンクリート造)に比べて建物部分の資産価値の減少スピードが速いため、築年数が経過すればするほど売却価格が下がり、買い手が見つかりにくくなるという傾向があるのです。
都心部では戸建てよりマンションの方が需要が高いため
ライフスタイルの変化に伴い、特に都市部においては利便性の高い駅近のマンションを好む購入者層が増えています。オートロックなどのセキュリティ性の高さや、管理会社による共用部分の清掃・維持管理といったマンションならではの快適性や安心感を求める声は年々高まっています。
一方で、戸建ては庭の手入れや建物の維持管理をすべて自分で行う必要があります。そうした手間やコストを敬遠し、より手軽なマンションを選ぶという方が、特に単身者や共働きの夫婦などに多いのが実情です。
もちろん郊外や地方都市では依然として戸建ての人気は根強いですが、都心部においてはマンションに比べて購入希望者の絶対数が少なく、競争が激しくなりがちであるという側面があります。
戸建ての維持や管理に手間がかかるため
前述の通り、戸建てはそのすべてを所有者が自己責任で維持・管理しなければなりません。外壁や屋根の定期的な塗装メンテナンス、庭の草むしりや植木の剪定、そして室内のあらゆる設備の修繕や交換など、多くの作業が必要です。
こうした維持管理にかかる継続的な「手間」と「コスト」は、購入希望者にとって大きな懸念材料となります。特に初めてマイホームを購入する若い世代にとっては、その負担の大きさが戸建ての購入をためらわせる一因になっています。
売却の際には、これまでのメンテナンス履歴をきちんと提示し、建物が良好な状態で維持されていることをアピールすることが、買主の不安を払拭する上で重要です。
売却が難しい戸建ての特徴
では、より具体的にどのような特徴を持つ戸建てが売却に時間がかかったり、価格が下がりやすかったりするのでしょうか。ご自身の物件と照らし合わせながら確認してみてください。
築年数が経過している
やはり最も大きな要因は「築年数」です。前述の通り、木造住宅は築20年を過ぎると建物の資産価値がほとんどゼロと見なされるため、売却価格は実質的に土地の価格のみとなりがちです。
また、1981年6月1日より前に建築確認を受けた「旧耐震基準」の建物は、現在の耐震基準を満たしていないため、買主が住宅ローンを利用しにくかったり、地震への不安を感じたりすることから、売却はさらに難しくなります。
築年数が古い場合は、耐震補強工事や大規模なリフォームを行うことで価値を高めるという選択肢も視野に入れる必要があります。
価格設定が高い
売主様にとって、長年住み続けた家には愛着があり、「少しでも高く売りたい」と願うのは当然の気持ちです。
しかし、その想いが先行するあまり、周辺の相場からかけ離れた高すぎる価格設定をしてしまうと、購入希望者は見向きもしてくれません。
内覧の問い合わせすら全く入らないという状況が長期間続けば、物件は「売れ残り」のイメージがつき、かえって価値を下げてしまうという悪循環に陥ります。
不動産会社の客観的な査定価格や近隣の成約事例を冷静に受け止め、適正な価格設定を行うことがスムーズな売却への第一歩です。
内覧時の印象が悪い
内覧は、購入希望者がその物件を最終判断する、いわば「お見合い」の場です。この時の第一印象が、その後の購入意欲を大きく左右します。
室内が散らかっていたり、水回りにカビや汚れがあったり、あるいはペットやタバコの臭いが染み付いていたりすると、買主の購入意欲は一気に冷めてしまいます。
また、売主の対応が不愛想だったり、質問に対して曖昧な答えしかできなかったりすることも、マイナスの印象を与えます。
内覧前には徹底的な清掃と整理整頓を心がけ、当日は明るい笑顔で迎えることが重要です。
メンテナンスに不備がある
外壁のひび割れや塗装の剥がれ、あるいは雨漏りの跡といった明らかな建物の不具合が放置されている物件は、当然売却が難しくなります。
買主は「購入後に多額の修繕費用がかかるのではないか」と大きな不安を抱いてしまうからです。
売却前に最低限の補修を行っておくか、あるいは補修費用分を考慮した価格設定にすることが必要となります。これまでの点検や修繕の履歴をきちんと保管し、提示することも買主への安心材料となります。
売り手のこだわりが詰まっている
家を建てる際に、ご自身の趣味やこだわりをふんだんに詰め込んだ、非常に個性的なデザインの家は注意が必要です。
例えば、奇抜な色使いの外壁や特殊な間取り、あるいは本格的なシアタールームや防音室といった設備。これらは売主にとってはお気に入りの自慢の空間かもしれませんが、一般の多くの人にとっては必ずしも魅力的とは限りません。
趣味性が高ければ高いほど、購入希望者のターゲット層は狭まってしまい、結果として買い手が見つかりにくくなるというジレンマがあります。
以前なんらかのトラブルが発生している
その物件で過去に、何らかの心理的な抵抗感を生じさせるような出来事があった場合、それは「心理的瑕疵(かし)」として買主に告知する義務があります。
告知を怠ると、後から契約解除や損害賠償を請求される可能性があります。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
- 建物内での自殺や、殺人、あるいは、不審死があった
- 近隣に、反社会的勢力の事務所など、嫌悪施設が存在する
- 過去に、近隣住民との間で、深刻なトラブルがあった
こうした物件は、やはり買主から敬遠されがちであり、相場よりも価格を大幅に下げなければ売却は困難となります。
土地の形状が特殊である
土地の形状も売却のしやすさに大きく影響します。正方形や長方形といった形の整った「整形地」は設計の自由度が高く、人気があります。
一方で、道路に接する間口が狭く奥に土地が広がっている「旗竿地(はたざおち)」や、面積が極端に小さい「狭小地(きょうしょうち)」、あるいは三角形や台形といった「不整形地」は、建てられる建物のプランに制約が多く、また駐車がしにくいなどのデメリットがあるため、相場よりも価格が安くなる傾向にあります。
立地にデメリットが多い物件である
交通の便や周辺環境といった「立地」は、不動産の価値を決定づける最も重要な要素の一つです。
例えば、最寄り駅から徒歩で20分以上かかるような「郊外」の物件や、坂道が多い、あるいは近くにスーパーや病院といった生活利便施設が少ないといった「利便性の低さ」は、大きなマイナスポイントとなります。
また、線路沿いの騒音や、工場の近くの臭気といった周辺環境の問題も、買主から敬遠される原因となります。
再建築不可物件である
現在の建築基準法では、家を建てるためには、その土地が幅員4m以上の「道路」に2m以上接していなければならないという「接道義務」が定められています。
この条件を満たしていない土地にある家は、一度取り壊してしまうと新たに家を建てることができない「再建築不可物件」となります。
こうした物件は住宅ローンを利用することが非常に困難であるため、購入できる人が極端に限られてしまいます。そのため、売却は極めて難しく、相場よりも大幅に低い価格での取引とならざるを得ません。
戸建てが売れるまでのおおよその期間
戸建ての売却を始めてから、実際に買主が見つかり売買契約を結ぶまでにかかる期間は、物件の条件や市場の状況によって大きく異なりますが、一般的には3ヶ月程度が一つの目安とされています。
内訳としては、不動産会社と媒介契約を結び、販売活動を開始してから購入申込が入るまでが1ヶ月から2ヶ月。そして、条件交渉を経て売買契約に至るまでが2週間から1ヶ月程度といったイメージです。
もちろんこれはスムーズに進んだ場合のケースです。前述したような売却が難しい特徴を持つ物件の場合は、半年から1年以上、あるいはそれ以上の期間がかかってしまうことも決して珍しくありません。
売却を急ぐ必要がある場合は、後述する「不動産買取」という選択肢も視野に入れる必要があります。
戸建てをスムーズに売るためのコツ
では、ご自身の戸建てを少しでも早く、そして良い条件で売却するためには、どのようなことを心がければ良いのでしょうか。そのための6つの実践的なコツをご紹介します。
綺麗に掃除する
内覧時の第一印象を良くするための、最も基本的で効果的な方法がこの「掃除」です。
特にお客様の目が行き届きやすい玄関、キッチン、トイレ、お風呂といった水回りは、徹底的に磨き上げましょう。モデルルームのような生活感のない完璧な状態にする必要はありません。
しかし、清潔感があり「大切に使われてきた家だな」という印象を与えることが、買主の購入意欲を大きく高めます。
室内の不要なものはできる限り処分し整理整頓を心がけ、内覧当日はすべての部屋の照明をつけ、窓を開けて明るく風通しの良い空間を演出しましょう。
必要に応じてリフォームやリノベーションを検討する
壁紙の目立つ汚れやフローリングの傷など、軽微な劣化であれば部分的なリフォームを行うことで、家の印象をぐっと良くすることができます。
ただし、キッチンやお風呂の交換といった大規模なリフォームは注意が必要です。かけた費用を売却価格に上乗せできるとは限らず、また新しい設備が買主の好みに合うとも限りません。
リフォームを行うかどうかは、その費用対効果を不動産会社の担当者とよく相談した上で慎重に判断すべきです。場合によっては、リフォームせずにその分価格を下げる方が得策なこともあります。
売却するタイミングを見極める
不動産の価格は常に変動しています。一般的に不動産市場が活発になるのは、転勤や就学のシーズンである1月から3月、そして9月から11月にかけてといわれています。
こうした買主の動きが活発になるタイミングに合わせて売却活動を開始することで、より多くの購入希望者と出会う機会を増やすことができます。
また、金利の動向や近隣での大規模な開発計画など、社会全体の経済状況や地域の将来性を見極め、最適な売却のタイミングを不動産会社と相談することも重要です。
戸建てに強い不動産会社に依頼する
不動産会社にはそれぞれ得意とする分野があります。ワンルームマンションの賃貸仲介を得意とする会社もあれば、事業用の大規模な土地取引を専門とする会社もあります。
戸建ての売却を成功させるためには、そのエリアの戸建て売買に豊富な実績とノウハウを持つ不動産会社をパートナーとして選ぶことが何よりも重要です。
戸建てを探している購入希望者のリストをどれだけ持っているか。そして、戸建て特有の建物の価値や法的な問題をどれだけ深く理解しているか。その専門性が売却のスピードと価格を大きく左右します。
媒介契約時に期限を伝える
不動産会社と媒介契約を結ぶ際には、ご自身の売却希望時期を明確に伝えることも有効です。
「子供の進学に合わせて、来年の3月までには売却を完了させたい」といったように、具体的な期限を設定することで、不動産会社もそのゴールに向けて、より計画的で積極的な販売活動を行ってくれるようになります。
また、一般媒介契約や専任媒介契約の契約期間は3ヶ月と定められています。この期間内に成果が出なければ、別の会社に切り替えるという選択肢も視野に入れておきましょう。
無理に売却せず、不動産買取も検討する
どうしても買い手が見つからない、あるいは相続税の納税期限が迫っており、すぐにでも現金化する必要がある。
そんな場合には、不動産会社に直接物件を買い取ってもらう「不動産買取」という方法も有力な選択肢となります。
売却価格は市場価格の7割から8割程度と安くなってしまいますが、販売活動や内覧対応の手間が一切なく、数週間という短期間で確実に物件を現金化できるという大きなメリットがあります。
ご自身の状況や時間的な制約を考慮した上で、仲介と買取、どちらが最適なのかを検討しましょう。
戸建ての売却は確かに難しいがプリの力を借りれば売れる可能性はある
戸建ての売却には、確かにマンションにはない特有の難しさや注意すべき点が存在します。
しかしその一方で、庭のある暮らしやプライベートな空間といった、戸建てならではのかけがえのない魅力を求めている購入希望者もたくさんいらっしゃいます。
大切なのは、ご自身の物件が持つ長所と短所を客観的に、そして正確に把握することです。
そして、その価値を最大限に引き出し、本当にその家を必要としている未来の住まい手へと繋いでくれる、信頼できる不動産のプロフェッショナルをパートナーとして見つけ出すことです。
戸建ての売却を検討されているようでしたら、いつでもお気軽にご相談ください。