自宅の住み替えや相続などをきっかけに、「この家は今、いくらで売れるのだろう?」と考えたとき、売却活動の第一歩となるのが「査定」です。しかし、いざ査定を依頼しようと思っても、「どこに頼めばいいのか」「費用はかかるのか」「査定後にしつこく営業されないか」といった様々な疑問や不安が浮かんでくる方も多いのではないでしょうか。
不動産の査定は、売却計画を立てる上での基礎となる非常に重要なプロセスです。査定の仕組みや種類、依頼先ごとの特徴を正しく理解しておくことで、不安を解消し、スムーズに、そして納得のいく価格での売却を目指すことができます。
この記事では、自宅の無料査定を依頼できる場所から、査定の種類とそれぞれのメリット、査定を依頼する前に準備しておくべきことまでを網羅的に解説します。さらに、査定時に起こりうるトラブルの事例と、それを賢く避けるための具体的な対処法もご紹介します。

宮原海斗(株式会社Gen’Z 代表取締役)
宅地建物取引士/相談診断士

横田大樹(株式会社Gen’Z 専務執行役)
宅地建物取引士/相談診断士
自宅の査定はどこに依頼しても無料でできる
まず最も重要な点として、不動産会社に売却を目的として依頼する自宅の査定は、基本的にどこに依頼しても「無料」で行われます。大手不動産会社であれ、地域密着型の不動産会社であれ、料金を請求されることはありません。
なぜ無料なのかというと、不動産会社にとって査定は、売主から売却の仲介を任せてもらうための営業活動の一環だからです。査定を通じて自社の専門性や販売力をアピールし、「媒介契約」という売却の依頼を獲得することが最終的な目的です。そのため、査定自体をサービスとして提供し、売主との接点を作っているのです。
したがって、「無料で査定だけしてもらって、売却をやめても大丈夫だろうか」と心配する必要はありません。査定結果に納得できなければ、無理に売却を進めたり、その不動産会社と契約したりする義務は一切ありませんので、安心して依頼することができます。
自宅の査定が有料になるケース
原則無料である不動産査定ですが、例外的に有料となるケースも存在します。それは、売却を直接の目的とせず、法的な証明力や公的な手続きのために、より専門的で客観的な価格証明が必要な場合です。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 離婚に伴う財産分与で、夫婦間で不動産の評価額について合意が取れない場合
- 相続が発生し、遺産分割協議で不動産の評価額を公平に算出する必要がある場合
- 訴訟などで、裁判所に不動産の客観的な価値を証明する書類として提出する場合
このような場面で必要とされるのが、国家資格を持つ「不動産鑑定士」が行う「不動産鑑定評価」です。不動産鑑定士は、不動産の経済価値を判定する専門家であり、彼らが作成する「不動産鑑定評価書」は公的な証明力・証拠能力を持ちます。
この不動産鑑定評価を依頼する場合は、20万円~30万円程度の費用がかかります。不動産会社が行う無料の「査定」はあくまで売却の目安価格であるのに対し、不動産鑑定士による有料の「鑑定」は公的な効力を持つ評価であるという違いを理解しておきましょう。
自宅の査定を無料で行ってもらうための手段
売却を目的とした自宅の無料査定を依頼するには、主に3つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に合った方法を選びましょう。
不動産会社のサイトに申し込む
三井のリハウスや住友不動産販売といった大手不動産会社や、地域で実績のある不動産会社の多くは、自社のウェブサイトに無料査定の申し込みフォームを設けています。
この方法は、すでに相談したい不動産会社が決まっている場合や、気になる会社が数社に絞られている場合に適しています。サイトの指示に従って物件情報や個人情報を入力するだけで、手軽に査定を依頼できるのがメリットです。
後日、担当者から連絡があり、査定結果の報告や訪問査定の日程調整などが行われます。
不動産会社の店舗に伺う
自宅の近所にある不動産会社や、以前から気になっていた不動産会社の店舗に直接訪問して、査定を依頼する方法です。
この方法の最大のメリットは、担当者と直接顔を合わせて相談できる点です。物件に関する細かな情報や、売却に関する希望、不安などをその場で伝え、詳しい話を聞くことができます。特に、地域情報に精通した地元の不動産会社に相談したいと考えている方にとっては、担当者の人柄や店舗の雰囲気を知る良い機会にもなるでしょう
ネットの一括査定サービスを使用する
「複数の不動産会社の査定額を比較したいけれど、一社一社に連絡するのは手間がかかる」という方におすすめなのが、インターネット上の一括査定サービスです。
「HOME4U」や「SUUMO売却査定」といったサービスサイトで、一度物件情報と連絡先を入力するだけで、提携している複数の不動産会社(通常は4~6社程度)に一括で査定を依頼することができます。
この方法のメリットは、何と言ってもその効率性の高さです。手間をかけずに複数の査定結果を比較できるため、自宅の相場をより正確に把握しやすくなります。また、各社の査定額の根拠や提案内容を比較することで、最も条件の良い、信頼できる不動産会社を見つけやすくなるという大きな利点もあります。
無料査定の種類
無料査定と一言で言っても、その方法や精度によっていくつかの種類に分けられます。売却の検討段階に応じて、適切な査定方法を選ぶことが大切です。
AI査定
AI査定は、近年急速に普及している査定方法です。マンション名や住所などを入力するだけで、AI(人工知能)が過去の膨大な取引事例や賃料相場、周辺環境などのデータを分析し、統計的に査定価格を即座に算出します。
最大のメリットは、匿名かつ無料で、誰にも知られずに、わずか数分で自宅のおおよその価格を知ることができる手軽さです。まだ売却を具体的に決めてはいないものの、「まずは相場だけ知りたい」という初期段階の方に適しています。ただし、個別の物件の状況(部屋の状態やリフォーム履歴、眺望など)は反映されないため、あくまで参考価格と捉える必要があります。
簡易査定
簡易査定は「机上査定」とも呼ばれ、不動産会社の担当者が、物件の所在地、面積、築年数、間取りといったデータと、周辺の類似物件の売出価格や成約事例、市場動向などを基にして、おおよその査定額を算出する方法です。
実際に物件を見ることなく、データに基づいて算出するため、通常は依頼から1~2営業日程度で結果を知ることができます。訪問査定を依頼する前に、複数の不動産会社の対応や査定の精度を比較検討したい場合などに利用されます。一括査定サイトで依頼できるのは、主にこの簡易査定です。
訪問査定
訪問査定は、不動産会社の担当者が実際に自宅を訪問し、物件の状態を直接確認した上で、より正確な査定額を算出する方法です。
担当者は、部屋の内装や設備の劣化状況、日当たりや風通し、眺望、リフォームの履歴といったデータだけでは分からない個別の要素を細かくチェックします。また、周辺環境(騒音の有無、近隣の様子など)や、法務局や役所で法規制などを調査した結果も加味されるため、最も精度の高い査定価格が提示されます。
本格的に売却活動を始める際には、この訪問査定が必須となります。査定には1~2時間程度を要し、査定報告書が提示されるまでには数日から1週間程度かかります。
自宅の無料査定を依頼するメリット
無料査定を上手に活用することで、売却活動を有利に進めるための様々なメリットを得ることができます。
メリット①短時間で価格を知ることができる
売却を考え始めたばかりの段階では、まず「自分の家がいくらになるのか」を知ることがスタートラインになります。AI査定や簡易査定を利用すれば、不動産会社に何度も足を運ぶことなく、自宅にいながら短時間でおおよその資産価値を把握することが可能です。これにより、次のステップである資金計画や住み替え先の検討などを具体的に進められるようになります。
メリット②市場価値を把握することができる
自分で周辺の物件価格を調べるだけでは、主観的な希望価格に偏ってしまう可能性があります。不動産のプロである専門家に査定してもらうことで、客観的なデータに基づいた現在の市場価値を正確に知ることができます。適正な売出価格を設定することは、売却を成功させるための最も重要な要素の一つであり、査定はそのための重要な判断材料となります。
メリット③複数の不動産会社を比較できる
特にネットの一括査定サービスを利用した場合、複数の不動産会社から査定結果を取り寄せることができます。これにより、1社だけの意見に惑わされることなく、多角的な視点から自宅の価値を判断できます。
さらに重要なのは、査定額そのものだけでなく、各社の担当者の対応や、査定額の根拠、販売戦略の提案内容などを比較検討できる点です。売却活動は、不動産会社の担当者と二人三脚で進めることになります。査定は、信頼して任せられるパートナーを見極めるための絶好の機会となるのです。
無料査定を依頼する前にやっておくべきこと
査定を依頼する前にいくつかの準備をしておくことで、査定がスムーズに進み、より正確な査定額を算出してもらうことに繋がります。
査定に必要な書類を集めておく
査定の際には、物件の正確な情報を伝えるためにいくつかの書類があると便利です。特に訪問査定を依頼する際には、事前に準備しておきましょう。
- 登記済権利証または登記識別情報: 物件の所有者や正確な面積を確認するために必要です。
- 固定資産税納税通知書: 固定資産税評価額や税額を確認できます。
- 購入時のパンフレットや図面集: 間取りや正確な寸法、仕様などが分かります。
- 建築確認済証、検査済証: 違法建築物でないことを証明する重要な書類です。
これらの書類が全て揃っていなくても査定は可能ですが、あるとよりスムーズで正確な査定が期待できます。
物件の相場を事前に調べる
不動産会社に査定を依頼する前に、自分自身でもある程度の相場観を持っておくことが重要です。国土交通省が運営する「不動産取引価格情報検索」や、民間の不動産ポータルサイト(SUUMOなど)で、近隣の類似物件がいくらで売りに出されているか、あるいは過去にいくらで取引されたかを調べてみましょう。相場を知っておくことで、不動産会社が提示する査定額が妥当なものか判断する基準を持つことができます。
売却時期と目標額を具体的に決めておく
「いつ頃までに売りたいのか」「手元にいくら残したいのか」といった、売却の希望や目標を具体的に決めておくことも大切です。例えば、「子供の進学に合わせて半年後までに売りたい」「次の家の購入資金として最低でも3,000万円は確保したい」といった具体的な目標があれば、不動産会社もそれに合わせた売却戦略を提案しやすくなります。
住宅ローンの残債を確認する
売却する家に住宅ローンが残っている場合は、事前に金融機関に連絡するなどして、現在のローン残高がいくらなのかを正確に把握しておきましょう。家の売却価格がローン残高を上回る(アンダーローン)か、下回る(オーバーローン)かによって、その後の計画が大きく変わってくるからです。売却代金でローンを完済できるかどうかは、売却を進める上での大前提となります。
無料査定で起こりうるトラブル
手軽で便利な無料査定ですが、利用する際にはいくつかの注意点があり、場合によってはトラブルに繋がるケースもあります。
高額あるいは低額過ぎる価格を提示される
最もよくあるトラブルの一つが、査定額に関するものです。不動産会社の中には、売主の気を引いて媒介契約を結ぶために、意図的に相場よりもかなり高額な査定額を提示してくることがあります。しかし、高すぎる価格で売り出しても結局は売れず、最終的に大幅な値下げを繰り返すことになり、かえって売却が長期化するリスクがあります。逆に、不動産会社が安く確実に売りたいという思惑から、不当に低い査定額を提示するケースも考えられます。
営業電話
特に一括査定サイトを利用した場合、複数の不動産会社から一斉に連絡が来ることになります。熱心な担当者から、日中や夜間を問わず頻繁に営業電話がかかってくることがあり、ストレスに感じてしまう方もいるかもしれません。
多くのサイトでは、連絡方法について希望(メールのみなど)を伝えられるようになっていますが、ある程度の営業活動は覚悟しておく必要があります。
査定を断られる可能性がある
査定を依頼しても、不動産会社から断られてしまうケースもあります。例えば、物件の所在地がその不動産会社の営業エリア外である場合や、特殊な事情を抱えた物件(再建築不可物件など)で、取り扱いが難しいと判断された場合などです。一括査定を利用した際に、どの会社からも連絡が来ないということも起こり得ます。
トラブルを避けるための対処法
上記のようなトラブルを避け、安心して無料査定を利用するためには、以下の2つのポイントを意識することが非常に重要です。
査定額の理由を確認する
複数の不動産会社から査定結果が提示されたら、金額の高さだけで判断してはいけません。最も重要なのは、「なぜその査定額になったのか」という具体的な根拠です。
信頼できる担当者であれば、「近隣のこの物件が〇〇円で成約した事例があり、お客様の物件は角部屋で日当たりが良いため、プラス査定としました」といったように、客観的なデータと物件の個別性を踏まえた上で、査定額の根拠を明確に説明してくれるはずです。根拠が曖昧な高額査定には注意し、納得のいく説明をしてくれる会社を選びましょう。
営業担当者の対応を確認する
査定は、不動産会社の担当者の力量や人柄を見極める絶好の機会です。査定額だけでなく、以下のような点もチェックしましょう。
- 質問に対して、専門用語を使わずに分かりやすく答えてくれるか
- メリットだけでなく、デメリットやリスクについても正直に話してくれるか
- こちらの希望や事情を親身になって聞いてくれるか
- 連絡のレスポンスが早く、丁寧か
売却活動は数ヶ月にわたる長い付き合いになります。金額面だけでなく、コミュニケーションが取りやすく、信頼できると感じる担当者を見つけることが、最終的な売却の成功に繋がります。
無料に自宅査定を活用して慎重に売却を進めよう
自宅の売却を考え始めたら、まずは不動産会社が提供する「無料査定」を利用して、愛着のある我が家の現在の価値を把握することから始めましょう。査定は基本的に無料で、売却義務も発生しないため、気軽に利用できる売却の第一歩です。
査定の依頼方法には、不動産会社のサイトや店舗への直接依頼、そして複数の会社を比較できるネットの一括査定サービスがあります。また、査定の種類も、手軽なAI査定から、より正確な訪問査定まで様々です。ご自身の売却の検討段階に合わせて、これらの手段や種類を賢く使い分けることがポイントです。
査定を利用する際は、高すぎる査定額やしつこい営業電話といったトラブルの可能性も念頭に置き、提示された査定額の根拠をしっかりと確認し、信頼できる担当者かどうかを見極めることが何よりも重要です。
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