住み替えや相続などを理由に、所有している家の売却を考え始めたとき、多くの人がまず気になるのは「いくらで売れるのか」という売却価格でしょう。しかし、売却によって得た金額が、そのまま全て手元に残るわけではありません。家の売却には、不動産会社に支払う仲介手数料や、税金、各種手続き費用など、様々な費用が発生します。
これらの費用を事前に把握しておかなければ、「思ったより手元に残るお金が少なかった」と後悔したり、資金計画に狂いが生じたりする可能性があります。逆に、どのような費用が、いつ、どのくらいかかるのかを理解し、さらに費用を抑える方法を知っておけば、手取り額を最大化し、安心して売却活動を進めることができます。
本記事では、家を売るときにかかる8つの主な費用について、その内訳と金額の目安を一つひとつ詳しく解説します。
また、費用を少しでも抑えるための具体的な方法もご紹介しますので、これから家の売却を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。

宮原海斗(株式会社Gen’Z 代表取締役)
宅地建物取引士/相談診断士

横田大樹(株式会社Gen’Z 専務執行役)
宅地建物取引士/相談診断士
家を売るときにかかる費用
家の売却にかかる費用は、売却価格や家の状況によって変動しますが、一般的に売却価格の4~6%程度が目安と言われています。例えば、3,000万円で家が売れた場合、120万円~180万円程度の費用がかかる計算になります。ここでは、その内訳となる主な8つの費用について見ていきましょう。
仲介手数料
仲介手数料は、家の売却活動を依頼した不動産会社に対して、売買契約が成立した際に支払う成功報酬です。売却にかかる費用の中で最も大きな割合を占めることが多く、法律(宅地建物取引業法)でその上限額が定められています。
この手数料には、物件の広告宣伝費、購入希望者の案内、契約書の作成、売主と買主の間の条件交渉など、売却をサポートしてくれた不動産会社の活動に対する対価が含まれます。支払うタイミングは、売買契約時と物件の引き渡し時に半額ずつ支払うのが一般的です。
印紙税
印紙税は、経済的な取引などで作成される契約書や領収書といった特定の文書に対して課される税金です。家の売却においては、売主と買主の間で交わされる「不動産売買契約書」に収入印紙を貼付し、消印することで納税します。
納税額は、契約書に記載される売買価格によって決まります。契約書は売主用と買主用に2通作成するのが一般的ですが、原本を1通だけ作成し、もう一方はコピーで済ませることで、印紙税の負担を売主と買主で折半するケースもあります。
登記・抵当権抹消費用
売却する家に住宅ローンが残っている場合、売主は物件の引き渡しまでにローンを完済し、金融機関が設定している「抵当権」を抹消する登記手続きを行う義務があります。抵当権とは、ローン返済が滞った場合に金融機関がその不動産を競売にかけることができる権利のことで、これが付いたままでは買主に所有権を移転できません。
この抵当権抹消登記は、司法書士に依頼するのが一般的です。その際、司法書士への報酬と、登記手続き自体にかかる登録免許税(不動産1個につき1,000円)が必要になります。
住宅ローンに関連する費用
前述の通り、住宅ローンが残っている家を売る場合は、引き渡し時に一括で完済する必要があります。この一括返済(繰り上げ返済)を行う際に、金融機関によっては「繰り上げ返済手数料」が発生することがあります。
手数料の金額は金融機関や手続き方法によって異なり、無料の場合もあれば、数千円から数万円程度かかる場合もあります。一般的に、窓口での手続きよりもインターネット経由での手続きの方が手数料は安く設定されていることが多いです。事前に利用している金融機関に確認しておきましょう。
譲渡所得税
家を売却して利益が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」という税金が課されます。譲渡所得税は、所得税と住民税、復興特別所得税を合わせた総称です。
利益、つまり「譲渡所得」は、以下の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
- 取得費: 売却した家の購入代金や購入時の仲介手数料、リフォーム費用などから、建物の経年劣化分(減価償却費)を差し引いた金額。
- 譲渡費用: 売却時にかかった仲介手数料や印紙税など。
この計算で譲渡所得がプラスになった場合にのみ、課税対象となります。逆に、マイナスになった場合(売却損が出た場合)は、譲渡所得税はかかりません。
確定申告
譲渡所得が発生し、譲渡所得税を納める必要がある場合は、家を売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、税務署で「確定申告」を行わなければなりません。
また、後述する税金の特例を適用して譲渡所得税がゼロになる場合でも、その特例の適用を受けるためには確定申告が必要です。売却によって損失が出た場合も、確定申告をすることで他の所得と相殺して税金の還付を受けられる制度(損益通算及び繰越控除の特例)があるため、不動産を売却した際は確定申告を行うのが基本と覚えておきましょう。税理士に申告を依頼する場合は、別途10万円前後の報酬が必要になります。
引っ越し代
家を売却するということは、当然ながらそこから引っ越す必要があります。見落としがちな費用ですが、引っ越し代も売却に伴う支出として計画に入れておく必要があります。
引っ越し代は、荷物の量、移動距離、引っ越す時期によって大きく変動します。特に、新生活が始まる2月~4月の繁忙期は料金が高くなる傾向にあります。複数の引っ越し業者から見積もりを取り、比較検討することで費用を抑えることが可能です。
その他の費用
上記以外にも、物件の状況に応じて追加で費用が発生する場合があります。例えば、隣地との境界が不明確な場合、土地の境界を確定させるための「測量費用」が必要になることがあります。費用は35万円~80万円程度かかることもあります。
また、古い家で建物の状態が悪く、土地として売却する場合には「建物解体費用」がかかります。木造住宅の場合、坪単価4万円~5万円程度が目安です。
さらに、家の中に残っている不要な家具や粗大ごみを処分するための「不用品処分費用」や、買主への印象を良くするための「ハウスクリーニング費用」なども必要に応じて発生します。
家を売るときにかかる仲介手数料の目安
前述の通り、仲介手数料は売却にかかる費用の中でも特に大きな割合を占めます。宅地建物取引業法では、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限額を、売買価格に応じて以下のように定めています。
- 売買価格200万円以下の部分:価格の5% + 消費税
- 売買価格200万円超400万円以下の部分:価格の4% + 消費税
- 売買価格400万円超の部分:価格の3% + 消費税
しかし、毎回この計算をするのは複雑なため、売買価格が400万円を超える場合には、以下の速算式が一般的に用いられます。
仲介手数料の上限額 = (売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税
例えば、家が3,000万円で売れた場合の仲介手数料の上限額は、 (3,000万円 × 3% + 6万円)+ 消費税10% = 96万円 + 9.6万円 = 105万6,000円 となります。多くの不動産会社が、この上限額を正規の仲介手数料として設定しています。
家を売るときにかかる税金の金額目安
家の売却に関連する税金は、主に「印紙税」と「譲渡所得税」です。それぞれの金額の目安を把握しておきましょう。
印紙税
印紙税の額は、不動産売買契約書に記載された契約金額によって決まります。具体的な税額は以下の通りです。なお、2027年3月31日までに作成される契約書については、税額が軽減される特例措置が適用されます。
| 契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
例えば、3,000万円で家を売却した場合、売買契約書に貼付する収入印紙は1万円となります。
譲渡所得税
譲渡所得税の税率は、売却した家の所有期間によって大きく異なります。所有期間の判定は、家を売却した年の1月1日時点で判断されます。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 税率 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超): 税率 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)
※所得税には復興特別所得税(2.1%)が含まれています。
例えば、譲渡所得が1,000万円だった場合、 長期譲渡所得であれば、税額は 1,000万円 × 20.315% = 203万1,500円 短期譲渡所得であれば、税額は 1,000万円 × 39.63% = 396万3,000円 となり、税額に大きな差が出ます。所有期間が5年を超えるかどうかは、売却タイミングを考える上で非常に重要なポイントです。
家を売るときにかかる費用を少しでも抑える方法
家の売却には様々な費用がかかりますが、制度をうまく活用したり、工夫したりすることで、その負担を軽減することが可能です。
特例を活用する
譲渡所得税は高額になりがちですが、マイホーム(居住用財産)を売却した場合には、税負担を大幅に軽減できる特例が用意されています。最も代表的なものが「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」です。
この特例は、譲渡所得から最高で3,000万円を控除できるというもので、適用できれば課税対象となる譲渡所得が大幅に減少、もしくはゼロになります。例えば、譲渡所得が2,500万円だった場合、この特例を使えば課税譲渡所得は0円となり、譲渡所得税はかかりません。適用には、自分が住んでいる家であることなど、いくつかの要件を満たす必要がありますが、非常に節税効果の高い制度です。
経費計上する
譲渡所得税を抑えるもう一つの方法は、譲渡所得の計算式 譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用) のうち、「取得費」と「譲渡費用」を漏れなく正確に計上することです。
取得費には、物件の購入代金だけでなく、購入時の仲介手数料や登記費用、不動産取得税、リフォーム費用なども含まれます。譲渡費用には、売却時の仲介手数料や印紙税、測量費などが該当します。これらの費用を証明する契約書や領収書をきちんと保管しておき、経費として計上することで、課税対象となる譲渡所得を圧縮できます。もし購入時の売買契約書などを紛失して取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計上することになります。
仲介手数料を抑える
仲介手数料は法律で上限額が定められているだけで、必ずしも上限額を支払わなければならないわけではありません。不動産会社によっては、仲介手数料の値引き交渉に応じてくれる場合があります。
ただし、過度な値引き要求は、不動産会社のモチベーションを下げ、販売活動が手薄になるリスクも伴います。近年では、仲介手数料が半額や定額、無料といった料金体系を打ち出している不動産会社も存在します。サービス内容や売却実績などをよく確認し、手数料だけでなく総合的な観点で不動産会社を選ぶことが重要です。
10年超所有軽減税率を活用する
売却した家の所有期間が10年を超えている場合は、「3,000万円の特別控除」と併用できる「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」が利用できる可能性があります。
この特例は、3,000万円控除を適用した後の課税譲渡所得のうち、6,000万円以下の部分について、長期譲渡所得の税率(20.315%)よりもさらに低い税率(14.21%)が適用されるというものです。所有期間が10年を超えている場合は、この特例も活用することで、さらに納税額を抑えることができます。
信頼できる不動産会社に依頼する
費用を直接的に抑える方法ではありませんが、結果として手取り額を最大化するためには、信頼できる不動産会社をパートナーに選ぶことが最も重要です。
経験豊富で販売力のある不動産会社に依頼すれば、適正な価格設定と効果的な販売戦略によって、より高い価格で、より早く家を売却できる可能性が高まります。たとえ仲介手数料が上限額だったとしても、売却価格が高くなれば、結果的に手元に残る金額は多くなります。査定を依頼する際には、査定価格の根拠や販売戦略などを詳しく聞き、親身になって相談に乗ってくれる、信頼できる会社を見極めましょう。
家を売るときにかかる費用の内訳を知り資金計画を建てよう
家を売却する際には、売却価格だけに注目するのではなく、仲介手数料や印紙税、登記費用、譲渡所得税といった様々な費用がかかることを理解しておく必要があります。これらの諸費用の総額は、売却価格の4~6%程度が目安となります。
事前にどのような費用が、いつ、どのくらい必要になるのかを把握し、資金計画に組み込んでおくことが、スムーズな売却活動の第一歩です。そして、譲渡所得税については、「3,000万円の特別控除」をはじめとする各種特例を活用することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
費用を抑え、最終的な手取り額を最大化するためには、これらの制度を熟知し、的確なアドバイスをくれる信頼できる不動産会社をパートナーに選ぶことが不可欠です。まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、査定価格だけでなく、担当者の対応や売却プランを比較検討することから始めてみてはいかがでしょうか。


